原因は買い手の気持ちの変化である。
個人的には充分な購買能力があってもネ況が深刻さを増し世間一般が沈滞ム−ドに染まってくると、アリストのような高価な高級スポーティカーはまっ先に買い控えの対象になったからである。
新時代の八イパフォーマンスを目指してアリストのフルモデルチェンジのプロジェクトが動き出したのは、一九九四(平成六)年の夏のことだった。
ぞれより先、クラウンのモデルチェンジ作業は開始されていたが、アリストをどうするか?は、かなり問題になった。
この不況のなかで果たしてアリストのような車種は必要なのか?といった厳しい声も社内から出てきた。
しかし、せっかく高い評価を得てきたモデルを一代限りでなくしてしまうのは忍びない、ということからゴーサインが出た。
ただ、指摘された多くの欠点はこの際、徹底して見直すこと、また、二代目のアリストはクラウンのバリエーションとしてではなく、独立した高性能セダンにすることになった。
開発担当のチ−フエンジニア(Cど)は、前のモデルから引き続いてWがやることになった。
彼はその後役員に昇格して、新しいエネルギー研究や安全などを担当することになり、アリストから離れることになるのだが、それは後の話である。
ボディデザインについても、ジウジア−ロに依頼はせず、社内のデ、ザイナ−のものを採用する方針が決まった。
長屋たちのグループはそれを受けて、前述の新しいデザイニングの理論を展開し、それを新アリストを対象として企画することになったわけである。
九五年に入ってWが役員に転じ、ボディ設計部からNが第一開発センターの製品企画部門に移ってきた。
初期の構想こそ波辺が立案したものであったが、その実務を引き継いで二代目アリストを完成させたのは、新任のNチ−フエンジニアである。
Nは一九七一(昭和四六)年に慶盛義塾大学工学部を卒業してTに入社した。
Tの技術畑のリーダーには官学出身が多いなかで、彼は珍しく私学の出である。
ちなみに、慶応出身のチ−フエンジニアは、Nが初めてだ。
入社以来、ずっとボディ設計部に籍を置いた。
内装設計がボディ設計から別れると、内装部門に移って二四年聞を過ごした。
多くの車種について、インストルメントパ、みルやシ−ト、各種の内装部品、さらには排気管の設計などを担当してきたが、独立してひとつの銘柄の開発責任者となったのは、このアリストが最初ということになる。
波辺からこのプロジェクトを引き継いだとき、いかにあるべきか」ということだった。
すでにバブルは完全に崩壊していた時期だった。
アリストの販売台数は最盛期に比較すると半分以下という激減という状況にあり、売れ行きと反比例するように商品としての欠陥を指摘する声は高まりを見せていただけに、この課題の解決は深刻であった。
「これまでのアリストのキャッチフレーズは、ハイパフォーマンス四ドアセダンということでしたが、新しいモデルでは、すこしテ!?を変えて『新時代のハイパフォーマンスセダン』としました。
新時代という意味づけは、従来のプラットフォームを使わないことにあります。
ということは、サイズ的にもパッケージング性能の而でも、トランクが狭いとか、そのほかもろもろの批判があった点守完全にクリアできるわけです。
そのうえで、もっとも大切にしたのは、高いプレステージ性とでもいいますか、高級車としての資質をさらにJH川めることでした」自動車の資質というと非常に難しいようにも思えるが、Nはそれについて、3つのポイントを挙げた。
パッケージングの資質。
スポーティセ、ダンとしてみると、これまでのボディはサイズ的には大きすぎた。
にも関わらず、トランクやキャビンが狭いという批判がある。
それは、デザインのために割いた部分が多すぎたということもできる。
そして、お存のユーティリティはそれほど気にしていなかった。
この反省をこめ、今回はオーバーハングを大幅に切り詰めて(前側で九五問、後側は短くしている)いる。
当然ながら全長は短くなっているが、居室部分の寸法は犠牲になっていない。
それどころか、乗り心地や直進性能の向上のためにホイールベースは逆に二om延長した。
差し引きで全長は二五m圧縮していながら、室内やトランク最初に彼が考えたことは「新しいアリスデザイン開発は、本社のデザイン部門の担当者だけでなく、デザイン部員に呼びかけて、公募というかたちで出発した。
提案とは最初に上層部に示すもので、サイズのレンダリングで行った。
上はA案で、高級イメージが強いものだった。
下のB案はカタマリ感が強く、スポーツ性能をうたいあげる豪快なイメージだ。
A案はフロント部を中心に、スツキリとしたもの変更した。
一体型のヘッドランプなど、この段階では採用案とはかなりはなれている。
下はB案のリファイン。
A案との相違を鮮明にするために3達式ランプがテーマになっている。
キャビンはB案のものだ力士フロントビューは中間審査のA案の評価が高かったことから、そのイメージでまとめた。
プロポーションは、長屋たちの研究カ注かされてこれまでeの大型高級スポーツモデルにないものになっている。
スペースは逆に増えているのだ。
まるで魔法だが、その夕、亦あかしは、ひとつひとつは地味なものであるが、機器の搭載方法を練りに練ったことにあるという。
この、外観的には小さくしながら、内側は広くするという方法が、Nのいうところの「第一のパッケージングの資質」である。
デザインの資質。
従来のモデルも、日本の大型セダンにはないイタリアン調の感覚によって、豪快な走りを予感させるものだったが、今回はさらにエキサイティングなスタイルを狙った。
Nによると、『ひとめ見て、すこし動かすだけで感じられるもの』をということで、ワンモーション、しかもかたまり感のあるデザインを考えてきたという。
それを実現するための苦心は前章で詳しく述べてきたところである。
技術と性能の資質。
第三の資質は、エンジンをはじめとする最新の技術をフルに盛り込むことにあった。
全回転域で最適なバルブタイミングを実現する無段階の可変バルブタイミング機構『VVTI』や、最高の操安性と万一のときの安全性を保つT自慢の『VSC』、新開発のブレーキアシストを全車に採用。
さらに、アクティブ4WS(電気式。
高速走行時のみの作動)も、アリストとしては初めてターボ・エンジン搭載車に装着することにした。
これまでのアリストでは、クラウンと共通のアンダーボディを使用していたが、思い切ったスタイリングを採用するためには、現行のクラウンとは異なるプラットフォームを採用せざるを得なかった。
これは、コスト的には大きな出費となったが、反面でクルマっくりの自由度が大きくなったことも明らかだ。
デザインの話のところでもあったように、これまでのデザインは見える部分、すなわち表皮に対するだけの意匠ではなく、骨格部分の構造にまでもデザイナ−の要請を入れ、設計を進めるようにした。
それだけにNが、新しいアリストの資質に関して第一の訴求点であるというのは当然かも知れない。
『ひとめ見て』『すこし動かすだけで』伝わる感動外形を圧縮しながら、そこに高い性能の装備を詰め込んでいくには、実に細かい寸法的なチェックが必要だった。
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